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介護業界に喝! 本当に必要とされる介護サービス
~合同会社はつらつ本舗 デイサービス茶々 代表取締役・施設長 吉田信之(よしだのぶゆき)氏~

2012-01-13

DSC_0091.jpg東京都葛飾区にある通所介護事業所「デイサービス 茶々」は、利用者の方の目線に立ったサービスの提供を目指し、2010年9月にオープンした。運営事業者は合同会社はつらつ本舗。その代表取締役である吉田信之さんは「介護業界に喝を入れたい」と意気込むが、この業界に足を踏み入れた当初は、自分自身が介護施設を経営することなど想像すらしていなかった。



介護業界の実態に出会う

吉田さんは現在40歳。実家の営む不動産管理・リフォーム業の会社に勤めながら起業し、現在も家業と兼務している。
「そもそもは、空いた土地に介護施設を建てて貸そうと考えてたんです。公園が多くファミリー向けの地域なので、マンションを建てても部屋は埋まるんですが、マイカーを持たない人が増えたので駐車場が空いてしまう。何か他のものに活かせないかって考えた時に、介護施設なら立地的にも向いているし、比較的割がいいかなと思って」
しかし、そうは思いついたものの、介護業界に関する知識はほとんどなかった。
「そもそも介護業界っていったいどういうことをやってるんだろうって、そこからわからなかったですし、貸すにしても安心して貸せる企業を把握しないといけない。施設の見学だけだと表面しか見えないので、仕事の合間にいろんな施設にパートで働きに行ったりして、いろいろ見てみたんです」
実家の不動産業のかたわら、2年ほど実際に介護の仕事を経験してみた。すると、今まで自分が思い描いていたイメージとはほど遠い、介護業界の実態が見えてきた。
「まず、スタッフの数が足りない。介護施設では原則利用者さん5人に対して1人のスタッフがいればよいと法令で定められていますが、この規定は現実的ではありません。利用者さんには介助が必要なので、保育園のように見守るだけでよいというわけにはいかないからです」
人件費を削るために規定ぎりぎりの人数で運営している施設が多い、と吉田さんはいう。
「目を配りきれないと事故につながることもあります。たとえば、落としたものを拾おうとして転んで、骨折しちゃうとか。80代、90代の方は骨折するとまず治らないですから、そうなるとデイサービスに通えるどころじゃなくなっちゃって、入院しちゃったり家の中にこもっちゃったりする。介護職のパートさんを1-2人増やすだけでそういう事故は防げるんです。人件費をけちって利用者さんの安全をないがしろにしている、この業界の残念なところですね」
「現場のスタッフはどこもみんな一生懸命やってるんですよ。現場からは、安全のためにスタッフの人数を増やすべきだとか、利用者さんに楽しんでもらうためにレクレーションをやった方がいいとか、いろいろ声が上がってくる。なのに、お金がかかることはなかなか上の承認がとれない。経営陣はほとんど現場を見ていないから、安全性に対する危機感とかがまるでない」
利用者の方のコメントやスタッフの愚痴は、吉田さんが働いたどの施設でも同じだった。
「自分で思っているような施設を運営してくれそうな企業がなかなかなくて、それじゃあ他と違って喜ばれるものを自分でやってみようと思って」



施設設計は自分で

施設の大まかな設計は、吉田さんが自ら行った。
DSC00371.JPG「どんな設計がふさわしいのかは、実際に業界で働いてみて初めてわかることです。1日の流れを考えて、動きやすく、より安全で、目配り・気配りが十分に行き届くような設計にしました。明るくて開放的な空間にするために、レクレーション室の天井を高くして窓を広くとり、自然の光が入るようにもしました」
DSC00077.JPGレクレーション室の窓の外にはウッドデッキがあり、園芸が楽しめるようになっている。
「高齢の方はお花が好きな方が多いですが、都内で園芸ができたり表に出られたりする施設はまずありません。地方に行くとすごくいい施設がたくさんあるので、これを都内でやったら絶対うけるなと思って。都内は事務所みたいな施設が多いですから」
レクレーション室やウッドデッキをはじめ、間取りにはかなりこだわった吉田さんだが、実は床の素材にまでこだわり抜いている。
「床はすべてカーペットにしています。フローリングの方が安く済むんですけど、自分がカーペット床の施設に行ってみて、この方が素足で歩けていいなと思って。足が麻痺してしまっている方だと上履きを履くと余計に危ないんです。もし転んでも、板張りよりはけがのリスクも少ないので安心です」



運転資金だけで耐えた5か月

もちろん、開業に向けてやるべきことは設計以外にもいろいろある。
「設計に加えて事業の申請などがあったので、3月頃までは慌ただしかったです。施設を建てはじめてから3~4か月は比較的余裕があったんですが、6月になって施設が完成に近づいた頃には申請が最終段階に入ってまた忙しくなり、それ以降は去年いっぱい年末までずっと休みなしという感じでした。7月に施設が完成したんですが、人を雇うのが面倒で(笑)、登記とかも全部自分でやりました」
開業するにあたって大変だったのは、役所とのやりとりだ。
「お役所って締め日があるじゃないですか。開業前の最終的な審査でもし書類に不備でもあったら、再提出を受けてもらえるのは翌月になる。開業が1か月遅れちゃうわけです。9月1日に絶対開業したかったので、そこにはかなり神経使いました」
吉田さんの奮闘の甲斐あって、2010年9月1日、通所介護事業所(※1)「デイサービス 茶々」は無事スタートを切った。
しかしいざ漕ぎだしてみると、今度はお金のやりくりに四苦八苦した。
「開業後、実際にお金が入ってきたのは12月になってからでした。介護保険制度の関係で、実際にサービスを提供してからお金をいただけるまでに時間がかかるんです。8月からスタッフを採用して研修したりしているので、まるまる5か月近く無収入で運転資金だけで回さなくちゃならなくて。最初は本当に苦しかったです。だからうちは本当に信金さんに融通していただいて」
それでも、経営に長けた人を他社から呼び寄せたりはせず、あくまでも吉田さん自身の手で経営を続けたという。
「この業界には経営ノウハウがあまりないんですよ。高学歴で社会福祉法人をいくつも立ち上げてるような人もいますけど、そう多くはないですし。現場を見てみると、雇われ所長・施設長の人たちは経営の知識が少ない人が多いんです。だから逆にこれだったら自分でもできそうだなと思って。普通の人でも努力して勉強すれば大丈夫ですよ」
※1 通所介護事業所..................通称デイサービス。利用者が施設に通い、健康チェック、食事、入浴などといったサービスのほか、日常生活上の世話やリハビリ、機能訓練等の提供を受ける。



十分な人数でこそ得られる双方の満足

理想の施設を自分の手でつくりたい、との想いからスタートした吉田さん。実際にどのようなことに気を付けて運営しているのだろうか。
「ほとんどの施設では、コストを抑えるために法令で決まっている人数ぎりぎりで運営しています。しかも介護士でも介護職でも、職種に関わらず雑用から何から全ての仕事をこなさなくちゃならない。でもそれじゃあ利用者さんをただ預かるだけになってしまう。うちは本当に意味のある介護をしたかったので、厨房は厨房で別に人を雇ったりして、それぞれの職種の業務に専念できるようにしています」DSC00064.JPG 法令では利用者の方5人に対しスタッフ1人以上と定められているが、茶々では厨房のスタッフを除いて数えても、利用者の方3人に対しスタッフ1人以上の割合を保てているというので驚きだ。
「今の介護業界がダメなところはお客さんをお客さん扱いしていないところ。人生の大先輩方からお金をいただいて、普段の生活をより充実させ長く元気でいていただくというのが本来の趣旨です。お話しをすることも精神の健康を保つために大切なはずなのに、スタッフが足りなくて利用者さんと会話する時間もない施設が多い」
そう語る吉田さんは、利用者の方に精神のみならず身体も健康でいてもらおうと、厨房でつくる食事にも気を配っている。
「食事代は保険の対象にならないので自己負担ですが、平均的にはお弁当代として700~800円とっている施設が多いと思います。でもうちは、管理栄養士を採用して運営していますが500円で提供しています。あまり高価だと自炊した方が安いってなっちゃいますけど、自炊だと栄養バランスが偏る。うちに来た時くらいはバランスのいい食事をしてもらって、元気になってもらいたいんです」
食事に関してだけは、利用者数が増えれば増えるだけ赤字になってしまう。そこだけは完全に慈善事業なんです、と吉田さんは笑う。
「この業界に喝を入れたいんです。日中、あまり日の当らないところでずっと1人で過ごしてらっしゃる方は、どんどん内にこもっていってしまいがちです。でもそんな方でも、明るいところで他の方とお話しなさっているとどんどんお顔が明るくなっていくんですよ。利用者の方が元気になっていく姿を見るのが、仕事の面白みとかやりがいにつながる。私だけでなく、他の介護スタッフもそうだと思うんです」 十分な数のスタッフがいることは、利用者の方にとっても、スタッフたち自身にとっても大切なことなのだ。



人を削らずにコストを削る

しかしそんな理想の施設を現実に成り立たせるためには、サービスの質を落とさぬようにコストを抑えなければならない。
「組織の形として合同会社(日本版LLC:Limited Liability Company)を選んだのは、コストを抑えるためです。そこまで手広く展開する予定はないので、合同会社で十分かなと」
ケアマネージャー(※2)を雇わないことも工夫の一つだ。
「基本的に新規参入するときは、居宅介護支援事業所を構えてケアマネージャーさんを雇うことで、利用者さんの獲得につなげます。でも業界の事情を把握してみると、ケアマネージャーさんをわざわざコストかけて雇わなくてもいいなと思って。ケアマネージャーさん以外からも紹介してもらえるような、喜ばれる施設をつくりたかったですし、つくれる自信もありましたから」
実際に、2010年9月のオープンから利用者は順調に増え続けている。
「最初は小規模型通所介護事業所(※4)として登録していましたが、" 1か月あたり300人"の基準を3か月程度で超えてしまったので、今年4月から通常規模型に移行しました。当初の事業計画では、年度が変わる頃に月300人を超えられるよう計画していたんですけど、予想外の伸びで嬉しい驚きです」 利用者の方のみならず、働き手からの反応も上々だ。
「介護業界は3Kみたいに思われていて離職率が高いですけど、うちで働いているスタッフには辞めたいという人はいません。他の施設で働きながら、週1回でいいからうちで働きたいと言ってくれる看護士さんもいます」
ケアマネージャーからも、デイサービスはどこも同じと思っていたが茶々を見て驚いたとの声が寄せられるという。本当に意味のある介護をしたいという吉田さんの想いは、業界の中に身を置く人にも伝わっている。

※2 ケアマネージャー..................正式名称は介護支援専門員。介護保険法において要支援・要介護認定を受けた人からの相談を受け、居宅サービス計画(ケアプラン)を作成し、介護サービス事業者との連絡、調整等を取りまとめる役割を担う。居宅介護支援事業所や介護予防支援事業所等に所属する。
※3 小規模通所介護事業所..................通所介護事業所には、小規模型事業所・通常規模型事業所・大規模事業所ⅠおよびⅡの4種類があり、前年度の1か月当たりの平均利用延人員数によって区分される。規模によって施設側に入る保険収入が異なる。



無理なく広げて、少しずつ「喝を入れる」

「まずはここ、茶々を安定させたいと思っています。でもこの施設がうまくいったとしても、同じような施設を何十店も増やしていくようなことはしません。自分の目が行き届かなくなってしまいますから」 上場している介護事業者は、株主がいる手前、他業界並みに効率よく利益を出そうとどんどん店舗展開を進めることが多い。しかし吉田さんが重視しているのは、あくまでも利用者の方に真の介護サービスを提供することだ。DSC_0086.jpg 「利幅は少ないですが、潰れはしないのがこの業界の安心なところです。利用者さんの数がこれから増え続けていくことははっきりしていますから。それに、利用者さんの負担は1割、つまり1人1回あたり1,000円程度でそれほど高くはない。国が潰れない限りは安心です」
まずは茶々の基盤をしっかりとさせ、いつかショートステイ(※4)にチャレンジするのが吉田さんの目標だ。
「ご家族が仕事や旅行で高齢者の方のそばを離れなければならない時に、高齢者の方が安心して宿泊できる施設が必要になります。『あそこなら任せても大丈夫』ってどんな方にも思っていただけるような、一般の方にもわかりやすい施設にしたい。ショートステイの施設では、利用者さんが追い出されてしまうこともあって問題になっています。いつまでも安心して宿泊していただける施設をつくりたいです」
本当の介護サービスを提供することを第一に考える。そして無理なく着実に事業を育て、じわじわと介護業界に喝を入れていく。吉田さんの熱い想いがいつか、介護業界の常識を変える日が来るのかもしれない。
※4 ショートステイ..................短期入所生活介護事業所、または短期入所療養介護の通称。要介護者等が施設に短期間入所(宿泊)し、入浴、排泄、食事等の介護、その他日常生活上の世話、機能訓練等を受ける。



城北信用金庫からのメッセージ

 吉田信之社長を推薦した最大の理由は、事業の成功も当然ながら"社長の取組姿勢"にあります。自ら働き、現場の意見を傾聴し、お客様の目線で考え、自ら行動する。お客様が増え続け、かつスタッフの離職がないことは、"社長の取組姿勢"の成果そのものです。リーダーはこうあるべきだと改めて勉強させていただきました。

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